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divorce
離婚・男女
2020.10.13

養育費の未払いと財産調査

Q質問内容

昨年,調停で夫と離婚しました。その際,養育費についてもしっかり決めたのですが,一度支払われたきりで,その後現在まで一切支払われません。相手が今どうしているのかは良くわかりません。どうすれば良いですか。

A回答内容

調停で養育費についても定めていたのであれば,調停成立の際に作成される調停調書が民事執行法22条に定める「債務名義」に当たるため,強制執行が可能です(家事事件手続法268条1項,民事執行法22条7号)。したがって,調停で(不備なく)定めた養育費に未払いがある場合については,強制的な回収が(法的には)可能,ということになります。

問題は,強制執行の対象です。いくら債務名義があったとしても,回収する先がなければ回収はできません。そして,その回収先は,回収する側が自分で探し当てる必要があります。

まず,一般的な強制執行の対象ですが,回収する先を探すにあたっては,回収のし易さも考慮する必要があります。この点からすると,やはり①預貯金口座と②給与債権がまず考えられるところです。もっとも,このうち①預貯金債権は,まとまった金額を回収できる可能性があること,差し押さえるのが金融機関の口座になるので回収がスムーズであることといったメリットがある一方で,執行した口座に預貯金が入っていないリスクがあること,一度強制執行してしまうと回収の有無にかかわらずその都度申立てが必要であること,といったデメリットがあります。他方で②給与債権については,養育費の差し押さえの場合,(税金などを控除した)給与の2分の1を差し押さえられるうえ,一度の申し立てで将来分の養育費まで毎月回収が可能です(民事執行法151条,同151条の2,同152条3項)。差し押さえの通知が職場にいくことによる心理的プレッシャーも考えれば,特に養育費の回収の場合,まずは②給与債権の差し押さえを検討することになります。

しかし,差し押さえにあたって,②給与債権であれば勤務先の情報は必要ですし,①預貯金口座であれば,銀行及び支店名まで特定する必要があるとするのが最高裁です。

これらの情報について,事前に知っていれば問題ないのですが,知らない場合,あるいは職場等が既に変わっていた場合には調査が必要になります。

調査の方法には種々ありますが,法に根拠があるものとしてはまず弁護士会照会(弁護士法23条の2)が考えられます。これは,弁護士が弁護士会を通じて各機関に照会する制度で,例えば大手金融機関(みずほ銀行,三菱UFJ銀行,三井住友銀行,ゆうちょ銀行,りそな銀行)については,債務名義があれば,相手方の名義の口座情報について回答を得ることができますし,相手方の携帯電話番号がわかれば,携帯電話番号に紐づいている口座(料金の引き落とし口座)について調べることも可能です。

以上のとおり,弁護士会照会では一部の金融機関の預貯金口座については調べられるのですが,上記のとおり養育費の回収において考えるべき給与債権の差し押さえに必要な勤務先や,大手ではない金融機関の口座の調査については難しいところがあります。これらの調査で有用になり得るのは,令和2年4月1日に施行された改正民事執行法で新設された,「第三者からの情報取得手続」です(民事執行法204条以下)。

この第三者からの情報取得手続とは,債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供させる手続なのですが,具体的には登記所に対して,債務者所有の不動産に関する情報を提供させるもの(同法205条),市区町村や日本年金機構あるいは厚生年金の実施機関に対して,債務者の給与債権に関する情報を提供させるもの(同法206条),銀行や証券会社等に対して,債務者の預金債権に関する情報や株式等に関する情報を提供させるもの(同法207条)です。このうち,「債務者の給与債権に関する情報」が勤務先等の情報を指します。給与債権に関する情報の提供については,先に下記の財産開示制度の利用を経ていること(同法206条2項)が必要であったり,養育費等の限られた場合のみ認められたり等のハードルはありますが,勤務先情報が知る手段ができたことは大きな前進です。

また,民事執行法の改正によって,従来から存在していた財産調査の手続である財産開示制度も強化されました。財産開示制度とは,「権利実現の実効性を確保する見地から,債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり,債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し,債務者の財産状況を陳述する手続」(https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section21/zaisankaizi/index.html)です。

具体的な内容は,大まかに(債務者による)財産目録の作成と事前の閲覧(同法201条),宣誓をさせたうえでの(法199条7項及び民事訴訟法201条1項及び同条2項),債務者(開示義務者)による裁判所での財産の陳述と裁判所及び申立人(債権者)からの開示義務者への質問,となります。

この財産開示制度の重要な改正点は罰則です。開示義務者(債務者)が正当な理由なく財産開示期日に出頭しなかったり,宣誓を拒んだ場合,宣誓した後で陳述を拒み,あるいは虚偽の陳述をしたりした場合には,6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(民事執行法213条1項5号及び6号)。従前は過料であったのですが強化され,懲役刑・罰金刑が科され得ることになりました。

罰則を背景にして裁判所に出頭させ,自己の財産について陳述させることはかなりの圧力になりますから,調査だけではなく,自主的な支払いを促すという意味でも一定の効果がある制度になりました。

以上が(特に養育費の未払いの場合),相手方の財産を調査する手段になりますが,資産の調査は事案に応じて考える必要があります。上記の各手段にも種々の要件がありますし,適切な手段であるかはそれぞれ検討が必要になります。未払いの金額を増やしても基本的に良いことは無いので,早めの対応をお勧めいたします。

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