Q質問内容
離婚を考えているのですが,あと3年で夫は定年です。退職金などがどうなるか心配です。
A回答内容
もともと「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする」のが民法の考え方です(民法762条1項の夫婦別産制)。しかし,この考え方のみでは,家事労働等の,一方配偶者の財産形成における他方の配偶者の貢献が全く評価されないことになってしまいます。そのため,この経済的な不平等を是正するため,財産分与の制度が設けられています(民法768条1項)。
そのため,財産分与とは,夫婦の共同生活中の貢献を清算することを主たる目的とするものであると考えられており,その帰結として,婚姻する前や婚姻関係が破綻した後に得た財産については,分与の対象外になります。
これを前提として,退職金についての処理について整理します。
まず,すでに配偶者が退職金を受領している場合,この退職金が財産分与の対象になることについては争いありません。退職金とは,基本的には給料の後払いとしての性質を有しており,給料は当然に財産分与の対象になるためです(なお厳密には,「退職金」が財産分与になるわけではなく,基準時点における退職金が振り込まれた預金等が対象になります)。ただし,支払われた退職金には,婚姻前の勤務期間分を含むことになるため,支給された退職金の総額から婚姻前に対応する分が控除されることもあります。
問題になるのは,まだ退職金の支払いがない場合です。基本的には,現在(財産分与の基準時点に)ある財産が分与の対象になりますから,将来受け取るべき退職金は財産分与の対象にはなりません。ただし,「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」には,将来受け取る退職金も分与の対象とするのが確立した裁判例です。どのような場合が「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」に該当するのかについて明確な基準はありません。ただ,裁判例等を見ると,①規模,経営状態,職種等の勤務先の情報,②退職金についての規定の有無と内容,③定年退職までの期間などを考慮しているようです。例えば,①公務員で,②退職金規定があり,③定年退職まで10年以内,といったケースであれば,「近い将来に受領しうる蓋然性が高い」と評価される(=将来支払われる退職金が財産分与の対象になる)可能性が高いといえます。
仮に(将来の)退職金が財産分与の対象になるとして,次はいつの時点で分与されるかが問題です。裁判例では,①離婚時点(厳密には口頭弁論終結時を含む)に分与するもの,②将来,実際に退職金を受け取った時点で分与するものの二つの考え方があります。①離婚時点で分与する説は,支給が確実であるとは言えない退職金をすぐ受け取れる点で,請求者側にメリットがあるもので,②実際に退職金が支払われてから分与する説は,資金調達をする必要がない点で支払う側にメリットがある反面,実際に支払われないリスクがあるうえ,離婚後から退職期間まで時間がある場合,連絡が取れなくなる等で回収が難しくなる点で請求者側にデメリットがあるものです。
また,分与金額も問題となります。①離婚時点で分与する説を取る場合,「離婚する時点で自主退職したと仮定して支払われる退職金額」を分与の対象とする説と,「将来受給することになる退職金から,中間利息を控除することで,離婚時点の価値に引き直した金額」を分与の対象とする説に分かれます。
裁判になった場合に,いずれの説が採用されるかについて明確な基準はありません。例えば,支払う側に資力がなければ,上記①離婚時点の分与は難しいため採用されない傾向にあります。請求者側としても,①の離婚時点の方が,メリットが大きいようにも思えますが,上記のとおり,中途での自主退職金額等がベースになるため,分与を受ける金額が少なくなってしまうことがあります。
以上が,財産分与における退職金についての大まかな考え方ですが,通常,財産分与は退職金のみを対象にしませんし,それぞれの事情によって結論は異なります(例えば,執行手続のことを考えると②の将来退職金を受領した時点での分与を受けることはお勧めできません)。まずは一度ご相談ください。